「もしも」の不安に備える心理学習慣:最悪を想定する簡単なテクニック
日々の生活の中で、私たちは様々な「もしも」について考えを巡らせることがあります。仕事での失敗、人間関係のこじれ、将来への経済的な不安など、未来の不確実性は私たちに漠然とした不安や心配をもたらすことがあります。これらの不安は、ときに私たちの心に重くのしかかり、行動をためらわせたり、日常の穏やかさを奪ったりすることがあります。
では、こうした未来への不安に、心理学に基づいたアプローチでどのように向き合えば良いのでしょうか。実は、「最悪の事態」をあえて想定し、それに備える心の準備を習慣にすることが、かえって不安を軽減し、心を穏やかに保つための有効な手段となり得ます。
この記事では、心理学的な視点から、「もしも」の不安に備えるための簡単なテクニックと、それを日々の習慣として取り入れるためのヒントをご紹介します。難しい専門知識は不要です。どなたでもすぐに実践できる、シンプルながらも効果的な方法です。
なぜ「最悪の事態」を想定することが不安を減らすのか
一見逆説的に思えるかもしれませんが、「最悪の事態」を具体的に考えることは、漠然とした不安の軽減に繋がります。これにはいくつかの心理学的な理由があります。
まず、不安は、その対象が不明瞭であるほど、私たちの心の中で際限なく大きくなる傾向があります。頭の中で漠然と「もし失敗したら大変だ」と考えている状態は、具体的に「何が」「どうなるのか」が分からないため、不安が膨らみやすくなります。
そこで、「最悪の事態」をあえて言葉や文字にすることで、不安の輪郭を明確にします。これにより、不安は手のつけられない怪物ではなく、具体的な形を持った対象として認識できるようになります。形が分かれば、それにどう対処すれば良いかを考えることができます。
次に、最悪の事態が起きた場合の対処法を考えることで、私たちは自身の「対処能力(リソース)」に目を向けることができます。たとえ最悪の事態が起きても、全く何もできないわけではないことに気づくでしょう。誰かに助けを求めたり、代替案を実行したり、あるいは最悪の状況を受け入れた上で次善の策を考えたりと、何らかの行動は可能です。この「自分には対処できる可能性がある」という感覚が、コントロール感を高め、不安を軽減します。
最後に、具体的に想定した「最悪の事態」が、実際に起こる確率は非常に低いという事実に冷静に気づくことができます。私たちは、可能性の低いネガティブな出来事を過大評価しがちですが、じっくりと考えてみることで、その非現実性に気づき、不安を現実的なレベルに引き下げることができます。
「もしも」の不安に備える簡単な心理学テクニック
この心の準備を習慣にするための具体的なステップをご紹介します。5分程度の短い時間で実践できます。
ステップ1:不安の対象を具体的に特定する
まず、あなたが今、何について漠然とした不安を感じているかを特定します。仕事のプレゼンテーション、友人との関係、今後のキャリアなど、具体的な状況や出来事を一つ選びます。
ステップ2:「最悪の事態」を具体的に書き出す
ステップ1で特定した状況について、「もし、考えられる中で一番悪いことが起こるとしたら、それは何だろうか?」と考えてみます。そして、その「最悪の事態」がどのようなものか、できるだけ具体的に、箇条書きでも良いので書き出してみましょう。頭の中だけで考えず、書き出すことが重要です。感情的にならず、客観的な視点を持つように意識します。
- 例:プレゼンテーションについて不安を感じている場合
- 声が震えて何も話せなくなる。
- 質問に全く答えられない。
- 発表内容が全く理解されず、失笑される。
- 上司や同僚から能力がないと思われる。
ステップ3:最悪の事態が起きた場合の「対処法」を考える
次に、ステップ2で書き出したそれぞれの「最悪の事態」に対して、もし実際にそれが起こってしまった場合に、自分はどのように対処できるか、どのような選択肢があるかを考え、これも具体的に書き出します。
- 例:ステップ2の続き
- 声が震えても、事前に準備したメモを読む。
- 質問に答えられなければ、「確認して後ほど回答いたします」と伝える。
- 理解されない場合は、分かりやすい例を出す、図を使うなど別の説明方法を試みる。
- 能力がないと思われても、今回の失敗を次に活かす方法を考える。評価は一つの意見として受け止める。必要なら、他のメンバーに助けを求めることも検討する。
ステップ4:現実的な可能性を評価する
ステップ2と3を通じて、あなたは「最悪の事態」と、それに対する自分の対処能力を確認しました。最後に、ステップ2で考えた「最悪の事態」が、現実的にどのくらいの確率で起こりそうかを冷静に評価してみましょう。多くの場合、あなたが想像する「最悪」は、現実的には起こりにくい、あるいは複数の不幸が同時に起こる非現実的なシナリオであることに気づくはずです。また、たとえ一部が起きたとしても、ステップ3で考えたように、あなたには何らかの対処法があることを再確認します。
このテクニックを習慣化するコツ
この心の準備のテクニックを習慣として定着させるためには、以下の点を意識してみてください。
- 時間を決める: 「毎週日曜日の夜に5分だけ」「通勤電車の中で一つだけ」など、取り組む時間やタイミングを具体的に決めます。
- 小さな不安から始める: 最初は、それほど深刻ではない、日常のちょっとした不安について試してみるのが良いでしょう。成功体験を積み重ねることで、より大きな不安にも取り組めるようになります。
- 記録をつける: ノートやスマートフォンのメモ機能を使って、書き出す習慣をつけましょう。後で見返すことで、自分がどのように不安に対処できるかという自信に繋がります。
- 完璧を目指さない: 上手に「最悪の事態」や「対処法」を考えられなくても大丈夫です。考えるプロセス自体が、不安を軽減する効果を持ちます。
- 無理強いしない: 気分が落ち込んでいるときや、強いストレスを感じているときに無理に行う必要はありません。心が比較的落ち着いている時に試してみましょう。
まとめ
未来への不安は、誰しもが抱える自然な感情です。しかし、その不安に振り回されることなく、穏やかな心で日々を過ごすための心の準備を習慣にすることは可能です。今回ご紹介した「最悪の事態を想定する」という心理学的なテクニックは、不安を具体的に捉え、対処能力を確認し、現実的な可能性を評価することで、漠然とした不安を軽減する手助けとなります。
このテクニックは、特別な場所や道具を必要とせず、短い時間で取り組むことができます。まずは、小さな不安について試してみてはいかがでしょうか。この心の準備を日々の習慣に取り入れることで、未来への恐れが少しでも和らぎ、今この瞬間の穏やかさをより感じられるようになることを願っています。